予診の総論
①病人自身に先に会うか、付添者にあうか
1. 病人自身が一人でやってくる人
2. 誰かに付き添われてくる人
3. 病人の代わりに第三者が相談にこられる場合
1.3. の時は言わずもがなで、やってきたその人から予診とるしかない
2. 身近な家人から話を聞くのが良いだろう
⇒本人には、自分しかわからない睡眠・食欲・便通・性欲について尋ねるくらい
*睡眠の情報はとても大切である
②簡潔な主訴を冒頭に
予診の際の着目点
①自発的にきたか、連れられてきたか
自発的に来る人は「苦痛」を持っている。
⇒この場合、たいてい治療意欲を多少とももつ。そして心的エネルギー水準の低下もそれほど低くない。
⇒一方で、連れられてきた人の中は、一見紳士風でも治療意欲は低いか、あるいはない人がいる。
⇒ただし、付添に連れられてしぶしぶやってくる人のすべてが病識不十分な精神病とは限らない。アクティングアウト傾向の多少ともみられる適応障害の人やパーソナリティ障害の人の中には、内的に不安や苦痛を感じにくいのでなかなか自発的に来ない人がいる
⇒逆に一人できたから「精神病ではない」ということにはならない。今日、統合失調症でも数多くの人が自ら治療を求めて自分からくる。
②年齢・性
③これまでの社会的機能: 数年さかのぼり それは予後予測因子となる
「発症までどの程度の社会生活をこの人は営んできたか」
数年くらい遡る
⇒逆に予診の段階で、幼少時期の母子関係にまでさかのぼる必要はまずない
例えば同じうつ病でも「年齢」+「症状」「性格」と病前の社会適応度を知ることで、予後判定は異なってくる。
中年のメランコリー神話型性格の持ち主で、平均以上の社会適応を病前に示していた人であれば、そのうつ「症状」が少々非定型的でも予後良好と判断してまず良い。
少々長引いても、「休息する」ことを基本に置いた薬物療法をつづけるべきである。
逆に症状は典型的に見えてもアナムネーゼに職業を短期間に転々としていたり、アルコールや薬物ないし、それに準じる状態の時期がはさまっていたりした場合には、その予後はそれほどカラッとしないことを予想したほうが良い。
統合失調症の1級症状があっても今までの社会機能にそれほど破綻がない、あるいは間然するところのない成人の場合、予後はふつう良好である
青少年・学生の場合は社会的適応といっても何を目印にするか?
⇒学校への出席・友人関係の濃淡・学業成績あたりか
④性格について: 内向性、energy、仕事好き、几帳面、思いやり
うつ病と
メランコリー神話型、循環性格、強迫性格、自己愛性格、
統合失調症と
分裂性格、内航性格、反抗期をもたぬ温和で自己主張の少ない良い子との関連度は高い
性格を正確に自己描写できる人は少ない
⇒こちらからの刺激後が大切である
a)内向的か、外交的か あるいは、非社交的か社交的か
友人は少ないか、多いか。世話好きか否か。
⇒要するに対人態度に関する陽と陰。
b) エネルギーのある方かどうか。精力的か、無力的か。
同じない後者でもエネルギーのある人とない人。外向き者でも無力的な人もいる。体の強い人、弱い人。
c) 仕事好きかどうか。
これは社会機能の良否と関係する。外向的で精力的でもそれが社会機能となってどこまで結実しているか、という見方である。
d)几帳面かどうか。
完全主義的傾向の有無という方が正確かもしれない。
⇒a)b)c)よりも細かくなるが、今日の精神病理にとって有用な項目である。
e)同調性
あるいは開放性
あるいは人へのおもいやりの有無
「思いやり」というとここには、少し価値判断が入るので注意を要するが、同じ内向き者でも、同じ強迫者でも対人的配慮の出来る人とできない人がいる。あるいはしすぎる人がいる。色々の訊ね方があろうが、「思いやり」という刺激語は意外に有効なように思われる。
⑤発症契機
家認は心因論に傾きやすい
偶然、経時的におこった複数の出来事を強引に疑似了解的に結び付ける危険を孕んでいる
非心因的前提条件、器質的な疾患を無視させる、危険もはらむ
現代人、特に都市在住者には発達途上の青少年でもない限りは、それほど見事なヒステリーや心因反応は稀と考えておく方がよい
DSM-Ⅲは乖離障害という項目で現代的なヒステリーに注目を促したけれども
日常心理学的な了解を超えた心因(ないしは状況因)は家人によっては黙殺される可能性がある。「ここで状況因」というのは、例えばサラリーマンにとっての昇任とか、家庭婦人にとっての「転居」とかがうつ病の契機になるといった場合である。証人という一見喜ばしい出来事が「心因」たりうる。
心因たりうる出来事
a) 過労
b) 対人葛藤
c) 離別もしくは死別
「喪失体験」とした方がよいかもしれない
あるいは「対象喪失」
d)試験、あるいは試験に準ずるところの「試される」状況
e)遭難
f)日常環境の比較的急な屈折的変化:仕事上の転勤、承認、配置換え
子女の結婚、婚約、遊学、死亡、別居、誕生などによる家族構成の増減
生命にかかわらぬ程度の身体疾患ないし負傷。負担の急激な増減(特に減少も注意)
出産による心身の変化。住居の移動や改造
⇒負のストレスっていうものもあることを知っておくこと
g)すこぶる過酷な非日常的な環境になげこまれること
⑥家族に関する事項
両親の存否、年齢、没年、病歴
同胞は、年齢の上から順にきくと聞き落としが無くて良い。
同胞の一人一人について性格等を聞いても、それほど時間はかからない。
遺伝歴については、初診時に十分には聴取できないものと思っておく方がよい。
⑦生活史
「特記すべき出来事」のみで十分であろう。
「外的生活史」と「内的生活史」(ピンスワンガー)があるが、家人から聴取することができるのはもちろん前者である。
a)出産前後の模様
産後、母に精神的不適応はなかったかも含めて
b)幼少時期両親のひざ下にあったか
幼児期、何らかの理由で長期間母親から離れることはなかったか。母親の心理的安定を脅かすような事態があったか。
母代理者がいたら、どんな人か。
c)学校関係
学歴や成績を大まかに知りたい。
その精神病像が原始反応的ニュアンスをつよく帯びるとき、素朴な社会文化的背景、平均以下の知能という条件があったら、その病像を「反応」として了解する可能性を高める。
逆に高学歴で、知能の高い人に同様のことがおきたときは、反応より内因的な「病的家庭」がより多く問題と考え得る。
また登校拒否、怠学の有無、出席状況も聞くべきであろう。
d)職業生活
内容だけでなく、転々としたか
e)結婚生活
少し聞きにくくても性生活は参考になる
時に、1人で来た人で初対面からいきなり「内的生活史」をしゃべりだす人がある。
⇒病人の過たる内的生活史は、いうまでもないが、必ずしもそのまま外的現実ではない。
例えば、もしある婦人が初診でいきなり小児期父親との間に近親相姦があったと言ったとしても、それを直ちに現実とみて良いかどうか検討することは予診では不要である。
⑧身体的既往歴
身体疾患や治療薬に起因ないし関係した精神症状が話題にされることが少なくない
大まかに、軽重にかかわらず意識のくもりや平素のその人らしからぬ言動のある時、特に年配の人の場合、脳器質性疾患、全身病、中毒性の物質を使っていないか、常用しているならその治療薬をきく
てんかん発作らしさはないか
おわりに
うつ病圏、ノイローゼ圏、統合失調症圏の人で、3分の2から4分の3を占めてしまうのでそれらを想定して書いた
しかし、「身体的基盤をもった精神障害」や「児童の精神障害」がある場合には、夜間せん妄の有無、あるとすればその発生時期、頻度、異常行動の模様とか